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コラム「新たな事業を支援する規制緩和の試み(ノーアクションレターから砂場へ)」

1 グレーゾーン解消制度の必要

企業が新しい商品・技術やビジネスモデルを事業化する際には、既存の法令や行政庁の規制に抵触しないかどうかが問題となります。そこで、新しい事業が現存の規制に抵触するか否かを確認できる制度として導入されたのが、広義のグレーゾーン解消制度です。

 

2 ノーアクションレターの導入

以前は、新しい事業を計画する事業者は、当該事業が何らかの法令等の規制に違反するおそれがないか、当該事業の規制を所管する省庁に個別に問い合わせ、所管の省庁からの回答を待つしか方法はありませんでした。問合せをした事業者は、所管の省庁から回答がもらえるか、回答がもらえるとしても、それがいつになるか予測できず、回答があっても、関係法令等の抽象的な解釈を示すにとどまり、計画中の具体的な事業が規制を受けるか否かの判断に役立たないこともありました。

このような状況を踏まえて、2001年に閣議決定で導入されたのが、行政機関による法令適用事前確認手続(米国の証券取引委員会SECのノーアクションレターの手続に倣った制度)です。

この制度では、民間の事業者等は、①行政庁の許認可決定の根拠となる規定で、その違反が罰則の対象となるもの、②行政庁の不利益処分の根拠となる規定、③民間企業等に直接に義務を課す根拠又は権利を制限する根拠となる規定(③は2007年に追加)のうち、各府省が指定した法令について、計画している事業が法令の条項に違反しないかを照会することができ、照会書を受け取った府省は原則として30日以内に書面で回答し、照会及び回答の内容を公表するものとされました(2007年以降は照会者名の公表には本人の同意が必要)。

この制度は、現在に至るまで、金融・ITの分野などで広く利用されてきましたが、照会の対象となる法令の条項が行政庁が指定したものに限られ、個人情報保護委員会、内閣官房など、この制度を導入していない府省があるなどの問題がありました。

 

3 新たなグレーゾーン解消制度と規制緩和の特例措置

そこで、産業競争力強化法によって2014年に導入された制度(狭義のグレーゾーン解消制度)では、照会の対象となる法令に関する制限をなくし、照会先も事業者が計画する事業を所管する府省庁とされました。これと同時に、企業実証特例制度(新事業特例制度)が導入されました。これは、計画する新事業が既存の規制対象となると判断された場合に、照会者は、所管の府省庁に当該規制を緩和する特定措置を提案することができ、その提案が認められると、事業者は当該企業に限定した規制緩和の特例措置を受けることができるという制度です。

 

4 新技術等実証制度(規制のサンドボックス制度)

さらに、2018年には生産性向上特別措置法に基づき、新技術等実証制度(サンドボックス制度:失敗を恐れずに自由に遊べる砂場という意味)が導入されました。これは、IoTやブロックチェーンなどの新たな技術の実用化や、シェアリングエコノミーなどの新たなビジネスモデルの実施が、現行の規制との関係で困難な場合に、規制を所管する省庁の認定を受けることによって実証実験ができ、行政庁は実証結果に基づいて規制緩和をするという制度です。事業者は内閣官房に実証計画を申請し、規制を所管する省庁が実証計画の法令適合性・実現可能性等についての審査を経て、実証の可否を判断します。この制度は3年間の限定付きでしたが、2021年6月からは産業競争力強化法の下で恒久的な制度とされ、多くの実績を上げています。

 

客員弁護士 田邊 誠

2022年11月30日執筆