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コラム「燃料費高騰による単価引き上げと買いたたき」

公正取引委員会は、2021年11月24日、「中小事業者等取引公正化推進アクションプラン」を改定しました。アクションプランは、公正取引委員会が重点的に強化する施策を示すものです。

下請法等の執行強化、相談対応の強化、不当なしわ寄せ防止に向けた普及啓発活動の拡充・強化を3本柱としており、中でも、最低賃金の引上げやエネルギーコストの上昇に伴う影響に関する調査・啓発・対処がこの度追加されております。

 

広島県の最低賃金は、2021年10月1日に871円から899円に上がりました。なお、金属製品製造業、業務用機械器具製造業、自動車付属品製造業等、県が特に定めた産業については、これよりも高い最低賃金が定められています。最低賃金よりも低い賃金を定めていたとしても、無効となり、最低賃金が適用されますので、人件費が高くなることになります。

ガソリン代等の高騰もあいまって、従来の製造代金や運送料では利益が少なくなる場合、下請事業者としては、単価の値上げを申し入れる必要が生じます。企業間の取引は原則として自由に行えますから、下請事業者が値上げを求めても、親事業者は必ずしも値上げに応じる義務はないということになりそうですが、下請法は、「同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること」(買いたたき)を禁止しています(下請法4条1項5号)。契約後に契約単価よりも低い金額で請け負わせることは「下請代金の減額」(4条1項3号)として禁止されますが、「買いたたき」は契約締結時に問題とされます。

この買いたたきに該当するかどうかは、以下の点を総合的に考慮して判断されます。
1 十分な協議が行われたか

2 差別的であるかどうか

3 市価や類似の給付に関する価格との差

4 原材料等の価格動向

分かりやすい例でいえば、多数のロットでボリュームディスカウントされた見積書を作成させ、少ロットで発注するとか、短納期発注なのに通常納期の代金で発注するというものが「買いたたき」に該当します。

アクションプランを受け、下請法Q&Aには、以下の点が追加されています。

「Q: 原油価格が高騰しているが、従来どおりの単価で発注することは問題ないか。

A: 原油価格の高騰に伴いエネルギーコストが大幅に上昇した下請事業者から単価の引上げを求められたにもかかわらず、親事業者が一方的に従来どおりに単価を据え置いて発注することは、買いたたきに該当するおそれがある。」

エネルギーコストの高騰(上記考慮要素4)は、企業努力によっても避けることができず、類似の給付の価格も上がると考えられます(上記考慮要素3)。このような状況からコストを価格に転嫁する必要性があるにもかかわらず、協議を経ずに一方的に単価を決定する(上記考慮要素1)点で買いたたきに該当するといえます。

親事業者としては、単価交渉の申入れを拒否することなく協議に応じ、単価値上げの必要性を考慮して単価を決定する必要があります。また、協議の経過記録を残し、十分な協議を行ったことを証拠化しておくべきです。

下請事業者としては、契約更新時期でなくとも単価値上げの必要性が生じた場合は単価の交渉を申し入れることになります。協議においては、最低賃金の上昇・エネルギーコストの高騰など避けようのない事由から単価値上げの必要性が生じたことを説明するべきです。

アクションプランは公正取引委員会のウェブページに掲載されておりますので、最新の情報を確認されたい際はご参照ください。

弁護士 河合直人

2021年11月30日執筆