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コラム「フリーランス新法について」

1 はじめに

令和5年4月、いわゆるフリーランス新法、正式には、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」が成立し、令和6年秋までに施行予定となりました。この法律は、個人で事業を行っている法人も含め取引に関わる関係者に影響が大きい法律となりますので、法律の内容を解説します。

本法律は、フリーランスなどが増加し働き方が多様化する中で、従業員を雇用しない個人事業主などが働きやすい環境を整備することを目的としています。特定の事業者間の取引において、義務や禁止事項を定め、違反者には指導、命令・公表、罰金などがあり、下請法をイメージすると理解しやすい法律です。また、一部は、育児・介護休業法の配慮義務などと類似する部分があります。

 

2 対象となる取引など

(1)保護される事業者

保護される事業者は、「特定受託事業者」であり、「業務委託の相手方である事業者」のうち、①個人で従業員を使用しないもの、②法人で、一人の代表者以外に他の役員等がなく、かつ、従業員を使用しないものとされています。要するに、従業員を使用しない個人事業主か、一人会社(法人)となります。個人事業主であっても従業員を雇って事業をしている人は対象外となりますし、逆に、法人であっても代表者しかいなければ対象となります。

 

(2)対象となる取引

対象となる「業務委託」とは、①事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造(加工を含む。)又は情報成果物の作成を委託すること、②事業者がその事業のために他の事業者に役務の提供を委託すること定義されています。

 

(3)義務等の対象事業者

義務や禁止事項の対象となる委託事業者については、2種類の定義が行 われています。それぞれ、義務などが異なるので注意が必要です。

ア 「業務委託事業者」

特定受託事業者に業務委託をする事業者全般を指しており、委託者側が個人である場合も含みます。

イ 「特定業務委託事業者」

上記の「業務委託事業者」のうち、①個人で従業員を使用するもの、②法人で2人以上の役員があるか、従業員を使用するものを指すとされています。

 

3 定められている義務など

(1)「業務委託事業者」の義務など

ア 明示義務(第3条)

(ア)給付内容、報酬額、支払期日、その他の事項を書面や電磁的方法(メールなど)で明示すること(第3条1項)が求められています。

(イ)電磁的方法で明示していた場合、書面の交付を求められたら遅滞なく交付すること(第3条2項)が必要となります。

(ウ)つまり、報酬や支払期日などを明確に定めることなく特定受託事業者に 業務を発注することは禁止されます。なお、いずれも例外規定があります。

イ 不利益な取り扱いの禁止(第6条)

特定業務受託事業者が、違反の申出を行ったことを理由に、取引数量の削減、取引停止その他の不利益な取り扱いをしてはならない(第6条3項)とされています。

 

(2)「特定業務委託事業者」の義務など

ア 支払期限(一般)(第4条1項、2項、5項)

(ア)支払期日を、給付内容について検査をするかどうかを問わず、給付を受領した日から60日以内、かつ、できる限り短い期間内において定めなければならないとされています。

(イ)支払期日を定めなかった場合は、給付を受領した日が支払期日とみなされる。

(ウ)定められた支払期日が規定に違反している場合は、給付を受領した日から60日を経過する日が支払期日とみなされる。

(エ)この点、月末に納品され、翌月上旬に検査完了、検査完了した月の月末を締め日として、その翌月末に支払いというような支払方法を設定していると、納品から60日を経過してしまうことになるので、違反行為となります。

 

イ 支払期限(再委託の場合)(第4条3項、4項、5項)

(ア)委託業務が再委託(一部または全部)であった場合、支払期日は、元委託支払期日から30日以内、かつ、できる限り短い期間内に定めなければならない。

(イ)支払期日が定められなかった場合は、元委託支払期日が支払期日とみなされる。

(ウ)定められた支払期日が規定に違反している場合は、元委託支払期日から30日を経過する日が支払期日とみなされる。

(エ)元委託先から前払金の支払を受けている場合は、必要な費用を前払金として支払うよう配慮をしなければならない。

 

ウ 継続業務における禁止行為(第5条1項)

政令で定める期間以上の業務委託を行った場合には、相手に帰責事由が ないのに、①給付の受領を拒むこと、②報酬額を減ずること、③給付の受領後にその給付に係る物を引き取らせることが禁止されています。また、④給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い報酬の額を不当に定めること、⑤正当な理由のある場合を除き自己の指定する物を強制して購入させ、又は役務を強制して利用させることも禁止されています。

 

エ 利益を不当に害する行為の禁止(第5条2項)

①自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させるたり、②帰責事由ないのに、給付内容を変更させたり、給付受領後に給付をやり直させることで利益を不当に害することを禁止しています。

 

オ 募集広告(第12条)

募集広告に際しても、虚偽表示または誤解を生じさせる表示が禁止されており、正確かつ最新の内容に保つことが求められています。

 

カ 配慮義務(第13条)

政令で定める期間以上の業務委託をする場合、特定業務受託者の申出に応じて、妊娠、出産、育児、介護と両立しつつ業務に従事できるよう必要な配慮をしなければならないとされています。なお、継続的業務委託以外の場合には、「努力義務」とされています。

 

キ 体制等の整備義務(第14条)

ハラスメント行為への対応体制等の措置を講じなければならないこと、あわせて、そこでの特定受託事業者の発言内容によって不利益な取り扱いをしないことが定められています。

 

ク 継続的業務における解除予告

継続的業務委託の場合、解除するとき、期間満了後の更新をしないときには、30日前までに予告をしなければならないとされています。また、理由開示を請求されればこれに応じなければならないと定められています。

 

4 違反行為に対する制裁

(1)上記3(2)ア乃至エに関する違反について

ア 特定受託事業者は、公正取引委員会又は中小企業庁長官に業務委託事業 者の違反を申し出て、適当な措置をとることを求めることができる(第6条1項)とされています。

イ 公正取引委員会等は、特定受託事業者の申出に対して、必要な調査を行い、事実であれば必要な措置をとらなければならないとされています。

ウ 中小企業庁長官は、明示義務違反、申出に対する不利益取扱いの禁止に違反したかどうか、支払期限の定めに違反したかどうかを調査し、事実であれば公正取引委員会に適当な措置を講ずるよう求めることができるとされています。

エ 公正取引委員会は、各違反行為の内容に応じて是正のための措置をとることを勧告し、勧告を受けた者が正当な理由なく措置をとらなかったときは、勧告に係る措置をとるよう命ずることもできます。この場合、公表することもできます。

 

(2)上記3(2)オ乃至クに関する違反について

ア 特定受託事業者は、厚生労働大臣に業務委託事業者の違反を申し出て、適当な措置をとることを求めることができるとされています。

イ 厚生労働大臣は、特定受託事業者の申出に対して、必要な調査を行い、事実であれば必要な措置をとらなければならないとされています。

ウ 厚生労働大臣は、各違反行為の内容に応じて是正のための措置をとることを勧告することができ、勧告を受けた者が正当な理由なく措置をとらなかったときは、勧告に係る措置をとるよう命ずることができます。この場合、公表することができます。

 

(3)なお、公正取引委員会や厚生労働大臣の命令に違反した場合や調査に応じない場合などには、罰金を科されることがあるので、この点も留意が必要です。

 

5 まとめ

以上のとおり、特定受託事業者と取引をする特定委託事業者においては、業務委託を行う際に、かなり留意した対応が求められることとなります。小規模な事業者であっても義務付けの対象となる可能性がありますので、対象となる取引がないかどうかを確認の上、法律の施行までに速やかに準備を進めることが必要となります。

 

弁護士 砂本啓介

2023年5月31日執筆