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コラム「氏名の振り仮名の法制化」

1 法制化の動き

国は行政手続のデジタル化を進めることなどを目的に、現行では戸籍の記載事項とされていない「氏名の読み仮名」を戸籍の記載事項に加えるため、戸籍法の改正を検討してきましたが、本年2月17日に法制審議会が「戸籍法等の改正に関する要綱」を法務大臣に提出し、これを受けて内閣は戸籍法等の一部を改正する旨の法案を国会に提出しました。

法案は4月27日に衆議院を通過しており、成立すれば、2024年度にも施行される見込みです。

 

2 改正法案の主たる内容

(1)氏名の振り仮名

改正法案では、「氏の振り仮名」及び「名の振り仮名」が戸籍の記載事項に追加され、この振り仮名(読み方)は「氏名として用いられる文字の読み方として一般に認められているものでなければならない」とされています。

一般に認められる文字の読み方であるといえるかについては市町村が審査を行います。この審査においては、幅広い名乗り訓(例えば、源頼朝の「朝」を「トモ」と読む。)を許容してきたわが国の命名文化を踏まえた運用のなされることが求められますが、字とあまりにも違う逆の意味の読み方(例えば、『高』を『ヒクシ』と読む。)や、混乱を招く、あるいは字からは全く連想できない読み方(例えば『太郎』を『ジロウ』『マイケル』と読む。)などは「一般に認められているもの」とは言い難いとされる可能性があります。行き過ぎたキラキラネームの命名について一定の制限が加えられることになりそうです。

 

(2)既に戸籍がある場合

これから生まれる新生児など初めて戸籍に記載がなされる場合には上記の規律がそのまま当てはまりますが、既に戸籍がある場合には、一般に認められている読み方ではない読み方であったとしても、現に使用している読み方であれば、その読み方を戸籍に記載することができるとされています。

既に戸籍がある場合における振り仮名に関し、改正法案は、氏については戸籍の筆頭者が、名については個々人が、施行日から1年以内に届出をすることができるとし、併せて、本籍地の市町村が現に戸籍に記載されている者に対してあらかじめ戸籍に記載することになる振り仮名を施行後遅滞なく通知するものとしたうえで、1年以内に本人からの届出がなかった場合には、通知した振り仮名を戸籍に記載することとしています。

この仕組みによると、何らの届出がなされなかった場合、現に使用している読み方と異なった読み方が戸籍に記載されてしまう可能性があることになります(この場合でも一度だけ、家庭裁判所の許可を要することなく、振り仮名を届出で変更することができるとされていますが。)。届出をしないままにしておくと予期せぬ名前(読み方)が付されてしまうかも知れませんので、注意が必要です。

 

3 金融実務との関係

今回の戸籍法改正の動きは、行政手続のデジタル化を進めることなどを目的とするものですが、改正法案の内容は金融実務にも影響しうるものと思われます。

例えば、金融機関等の顧客管理システムには現に使用されている読み方(振り仮名)が登録されていると思われますが、今後は、例外的であれ、登録された振り仮名と戸籍に記載される振り仮名が異なるということが起こり得ます。金融機関等においては、このような戸籍が提示された場合にどのように扱うかなど、整理をしておく必要がでてくるでしょう。

また、改正法案では、家庭裁判所の許可を得て振り仮名のみを変更するという規律が設けられることになっていますが、金融機関等では、今まで振り仮名のみを変更する手続は想定されなかったと思われます。金融機関等においては、今後整備されるであろう公的な振り仮名変更手続を踏まえつつ、登録されている預金者等の氏名の振り仮名のみを変更するための手続を整備する必要が出てくるものと思われます。

 

客員弁護士 小濱意三

2023年5月31日執筆