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コラム「事業報告、計算書類、および電子提供措置事項記載書面におけるウェブ開示事項」

1 定時株主総会の招集の通知に際して株主に提供すべき事項に関するウェブ開示

定時株主総会の招集の通知に際して、株主に対して提供する事項については、定款に規定を置くことで、書面の送付に代えて、ウェブ開示によって提供がなされたとみなすことが認められています(会社法施行規則133条並びに会社計算規則133条及び134条)。開示に要する会社の負担を限定しつつ、開示の充実を図ること目的としたものです。従来、上場会社においてもウェブ開示によるみなし提供に関する定款規定を設けていました。

 

2 電子提供措置事項記載書面におけるウェブ開示事項

令和元年改正会社法は、株主総会の招集に際して提供する参考書類、計算書類、事業報告等について、定款に規定を置くことで、電子提供措置をとることを認め(令和元年改正会社法325条の2以下)、上場会社では、このような定款の規定を置くことが義務づけられました。経過措置等により、電子提供措置にもとづく株主総会は、本年3月以降に開催される株主総会から本格的に実施されます。

電子提供措置をとる会社の株主は、電子提供措置がとられた情報(電子提供措置事項)を記載した書面の交付を請求することができます(改正会社法325条の2第1項)。請求を受けた会社は、電子提供措置事項を記載した書面を請求した株主に交付しますが(同条2項)、書面交付の請求に応じて交付する書面についても、一部の事項の記載を省略しウェブ開示とすることができます(同条3項・会社法施行規則95条の4)。

令和元年会社法改正にともない改正された当初の会社法施行規則95条の4では、従来のウェブ開示によるみなし提供ではウェブ開示の対象となっている、会社役員の責任限定契約に関する事項および連結計算書類のうち連結貸借対照表および連結損益計算書に記載された事項をも電子提供措置事項記載書面に記載しなければならないこととしていました。電子提供制度の下であえて書面交付請求をする株主に対しては、書面により十分な情報提供がされる必要があると考えられたためです。

 

3 コロナ禍を踏まえたウェブ開示事項の拡大

新型コロナウィルス感染症の拡大を踏まえ、令和3年の会社法施行規則および会社計算規則の改正で、事業報告記載事項のうち、事業の経過及びその成果、会社の対処すべき課題、会社の計算書類に表示すべき事項に係る情報についても、ウェブ開示によるみなし提供が認められるようになりました(改正会社法施行規則133条の2、会社計算規則133条の2)。

この措置は、当初令和3年9月30日までの特例措置とされていましたが、その後令和5年2月28日までに延長されました。

 

4 令和4年12月26日会社法施行規則、会社計算規則の改正

(1) ウェブ開示事項の拡大

令和4年12月の会社法施行規則、会社計算規則の改正は、平時のウェブ開示によるみなし提供制度、及び特例措置のウェブ開示によるみなし提供制度において書面への記載の省略が認められてきた事項については、これまで株主側に大きな不都合は生じていないという評価を踏まえて、書面交付制度においてもウェブ開示による事項を拡大しています。

すなわち、「貸借対照表・損益計算書」、「連結貸借対照表・連結損益計算書」、「役員の責任限定契約に関する事項」、「事業の経過及びその成果」、「対処すべき課題」、「補償契約に関する事項」及び「役員等賠償責任保険契約に関する事項」についても電子提供措置事項記載書面に記載することを要しない事項としました(改正会社法施行規則95条の4)。

さらに、従来のウェブ開示によるみなし提供についても、電子提供措置事項記載書面における取扱いと平仄を合わせ、また特例措置を本則に取り込むべく、事業報告の記載事項のうち、事業の経過及びその成果、対処すべき課題、補償契約に関する事項、役員等賠償責任保険契約に関する事項、計算書類のうち貸借対照表及び損益計算書について新たにウェブ開示によるみなし提供を認めています(改正会社法施行規則133条3項、同会社計算規則133条3項)。

 

(2) 施行期日

電子提供措置事項記載書面に関する規律は、公布期日である令和4年12月26日から施行されていますが、ウェブ開示によるみなし提供に関する改正規定は、特例措置が令和5年2月28日まで効力を有することを踏まえて、令和5年3月1日から施行されます。

 

5 終わりに

今回の改正により、書面による提供を省略しウェブ開示で済ますことのできる事項が拡大しましたが、会社法は、ウェブ開示が許容される事項のすべてについてウェブ開示によることを推奨するものではなく、実際にどの事項をウェブ開示事項とするかについては、それぞれの会社の実情を踏まえて、各社の合理的な裁量にもとづき決定されることが期待されています。

 

客員弁護士 片木晴彦

2023年1月31日執筆